プロダクションノート

いつまた、君と ~何日君再来~

100人ちかいエキストラ!引揚船の撮影

映画業界に身を置く人なら、誰もが知っているロケ地・埼玉県深谷。クランクインして8日目。深谷駅から歩いて15分ほどのところに、七ツ梅といわれる地域がある。かつて七ツ梅酒造という酒蔵があった土地一帯に、映画館・深谷シネマと、昭和初期の面影を残す街並みが再現されている。

大きな酒樽がいくつもあっただろうとたやすく想像できる高い天井の広い蔵は、現在はライブハウスなど多目的に使われているが、今回はこの蔵を上海からの引揚船・栄宝丸の船内に見立てた。

いつまた、君と ~何日君再来~

2月にしてはポカポカ陽気で気持ちのいい日に、100名ちかいエキストラが集められた。皆一様に顔を浅黒く、汗や泥にまみれたような汚しのメイクが施される。子どものエキストラも、坊主になることが条件で、いがぐり頭の小僧さんたちは圧倒的にかわいい。衣裳、メイクの整った人から船内のセットに配置される。外光が入らない、船底の船室にギューギュー詰めに座らされ、芝居がつけられる。天井から吊るされた、おもりのついた太い縄を大きく揺らし、その揺れに少し遅れるくらいの速さで人も揺れるよう、「いーち、にー、いーち、にー。このスピード覚えてくださいね!」と助監督が一緒に体を揺らしながら波に揺られる船室の人々を演出していく。

それが済むと、俳優たち—朋子(尾野真千子)と吾郎(向井理)、そして二人の子ども昇と暸、そして大陸の奥地から引き上げる途中、子どもを一人おいてきたという女(片桐はいり)が入って来る。片桐は向井と共に主演した映画『小野寺の弟・小野寺の姉』(14/西田征史監督)の縁もあり、向井の企画による本作にも、この日1日だけ出演することに。尾野、向井、片桐はセットに入るまでは非常に朗らかに談笑していたが、段取りが始まるとすぐさま映画の登場人物になり、スムーズに撮影が進んでいく。

いつまた、君と ~何日君再来~

と思われたが、暸の役はまだ右も左もわからない赤ん坊。他にもエキストラに1〜2歳の子どもたちが多くいる現場では、彼らのご機嫌が進行を左右するが、なんとか先へ進めていく。実はこの時、急遽頭を丸めて出演することになった男の子がその後も大活躍するのだった。

妻・朋子を演じる尾野真千子と吾郎役を演じる向井理は、以前にドラマ「サマーレスキュー〜天空の診療所〜」(12/TBS)で共演しているが、夫婦役で共演するのはまた違った印象を互いにもったそうだ。

「以前共演した時は初めてだったのでドキドキばかりでしたけど、今回も人に優しく、芝居に厳しく、素敵な人でした。今回はちゃんと私が朋子でいられる、なんだか背中の大きな人だなと感じました」と尾野は話す。

一方の向井も「“力強い女性”というイメージが一般的だと思いますし、以前共演した時も、僕は怒鳴られる役でしたが、僕は尾野真千子という女優をこっそり見続けていましたので、素敵な女優さんだと思ってきました。でも、僕の祖母は全く逆のタイプなのでどうなるか楽しみでした。今回の尾野さんは、以前の尾野さんの顔ではまったくなかったです。説得力がある。子どももいないのに、3人の子のお母さんの生活感が見える。それを自然にできる人って見たことないです」と共に賛辞を惜しまない。

いつまた、君と ~何日君再来~

100人ちかいエキストラ!引揚船の撮影

陶器やタイルの生産が盛んな愛知県・常滑市。現在も一部は操業中のタイル工場の敷地一帯に、朋子と吾郎の一家が茨城を出て引っ越す、福島県・棚倉の街並みを作る。作る、といっても、この工場の敷地は一旦足を踏み入れるや、まさに戦後まもない日本の地方都市の風景が甦ってきたような街並みが残されている。いまは使われていない建物の軒先に、看板やのれん、赤提灯をかければすぐに商店に変身。メインとなる通りにも「棚倉通り」という古めかしいアーチがかけられ、言われなければセットには見えないほどだ。

その通りに面した角地に、芦村家となる建物がある。手前はところてん屋を営む食堂スペース、奥に居室がある。

戦後間もない地方都市の街並みを再現

今にも雨が降り出しそうな厚い雲が空を覆い、この日の夜は想像以上に早くやってきた—。芦村家に誕生した3人目にして長女・真美を産んだばかりの朋子が真美と二人で布団に寝ている。深谷のシーンから成長した男の子二人の役は別の子に代わり、昇と暸は店先で、座布団を赤ん坊に見立てて背負い、子守の練習をしながら戯れている。このシーンも、生後1ヶ月の赤ちゃんのご機嫌頼み。赤ちゃんを覗き込む昇と暸は、「女の子だ、めんこいな」という、話しなれない方言に苦戦する。大人の俳優だって難しい、ややキツイ訛り。元気で声の大きい方言指導の方が、彼らの本当のおばあちゃんのように優しく、でもしっかりと教え込んでいく。映像作品において、子どもと動物の登場は予想のつかない動きで感動を生むことが多い一方、撮影するのは大変だというのが常だが、尾野は「今回は演技が初めてのお子さんが多かったからお芝居は大変でもあったけど、それが十分に活かされた」と前向きに語る。この日は徐々に雨が強まり、寒い夜となったが、朋子お母さんはこうして暖かい眼差しを子どもたちに送り続けていた。

100人ちかいエキストラ!引揚船の撮影

とても温かい雰囲気の深川組

前夜の雨が嘘だったかのように快晴、だが寒い朝。昨日と同じ棚倉通りへ。子どもたちが「おはようございまーす!」と、大きな声で挨拶。大人たちは、みな和む。昨夜と同じ店先で、向井は父親のように子どもたちを後ろから抱えて座り、監督がシーンの説明をし、ところてん屋「いこいの家」というタイルの看板が完成した瞬間を撮っていくところから始まる。出来上がったばかりの看板にスタッフが白い粉をふっていく。横で向井も、自分の手に粉をふりかけて汚しを入れる。外は風が強く乾燥し、舗装されていない土の地面から砂埃が舞う。薄手の作業着を着た向井は、裸足で下駄ばき。スタイリストが、ゴム製の湯たんぽを足に乗せてあげると「熱い! しかも歩けない(笑)」。その様子に一同爆笑。外は寒いし撮影中は真剣だが、とても温かい雰囲気の深川組である。

店の軒下で、「よしできた! 母ちゃん、できたぞ!」と吾郎と昇と暸が、家の中にいる朋子を手招きして呼び、中から出てきた朋子と家族4人が揃い、新しい家業の未来を想像し、笑顔がはじける—幾度かのテストを終え、いざ本番という寸前、監督はぽつりと「本番でぶっこんでみよう!」とスクリプターに告げる。「暸! 最後に『いらっしゃい!』って言おう!」。通行人のエキストラにも近づいていき、何か声をかける監督。このシーン以外でも、監督は本番直前に少し声をかけ、毎回何か新たな試みをしていた。